新NISAが干天の慈雨となるかは戦略次第(第1回)

今年から始まった新NISA(少額投資非課税制度)が、停滞していた「貯蓄から投資」への流れを加速させつつあります。資産価格の高騰、インフレの定着化、投資家の世代交代なども重なり、多くの個人が資産形成への関心を高めています。資産運用立国に向けて踏み出した歩みをより確かなものにするため、今後も金融当局は追加の強化政策を打ち出し、投資家に適した環境を整備していくでしょう。

一方、莫大な資金が流入することで投資をすれば利益が生まれるというリーマン・ショック後から続いていた市場環境は、風向きが変わってきました。生活を圧迫するまでになったインフレ懸念に対応して各国中央銀行が金利を引き上げたほか、地政学リスクにより株式指数も乱高下するなど、先行きを見通しづらい状況が続いています。新たな外部ショックにより、投資モメンタムが冷え込むシナリオも現実味を帯び始めていると言えそうです。

そうしたストレスシナリオでも顧客の資産形成への意欲を腰折れさせないためには何が必要でしょうか。それは新NISAの動きが不可逆的であることを金融機関の経営陣が再認識し、顧客の富を育てるというミッションを掲げて主体的にリテール事業を改革することです。

市場が不確実性を強める中で金融機関が資産形成事業を成功させるには、顧客の預かり資産に粘着性を持たせることが欠かせません。この粘着性の源泉は、顧客の人生に寄り添ったファイナンシャルプランニングや投資助言の提供を通じて、長期的に構築する信頼関係にあります。

長年のマイナス金利政策で国内リテール事業は赤字が続いてきましたが、新NISAを干天の慈雨として資産形成事業を成長領域にできるかは、経営陣のコミットメントにかかっています。ただ、変革の戦略やタイミングを誤れば時代に取り残されかねません。次回は個人投資家が金融機関を選ぶ要因や動向を解説します。

(2024年5月13日付、金融経済新聞)

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