「貯蓄から投資」の流れが加速する中で顧客との持続的な関係を構築するため、金融機関は資産形成事業戦略の抜本的な見直しと変革を迫られています。
事業変革の布石の第一歩は、顧客がどのような理由で金融機関を選定しており、どこに課題があるのかをデータに基づいて理解することです。一般的にはインターネット証券のNISA口座シェアが急拡大し、資産形成市場で優位に立っている印象がありますが、実際はどうでしょうか。
PwCコンサルティングの調査では、資産形成における最初の取引先金融機関としてネット証券を選んだ割合は、運用歴5年超の投資家が28%だったのに対し運用歴5年未満では48%にのぼり、ネット証券の勢いが増していることが裏付けられました。ただ、主な選定理由である割安な手数料や手続きの簡易性は厳密に各社を比較しているわけではなく、口コミやニュースなどの印象で選んでいる傾向が見られます。また大手証券会社やメガバンクも45%以上の顧客に選ばれており、まだネット証券の独り勝ちではありません。
ネット証券で投資経験を積んだ投資家が、やがては併用を含め対面金融機関を利用し始めるという興味深い傾向も確認できました。退職や相続等のライフステージ変化でまとまった資産を持つと、ネット証券だけでは消化しきれなくなり、信頼できるフィナンシャルアドバイザーを求め始めるのだと推測できます。その移行過程で顧客と信頼関係を構築できるかが対面金融機関にとっては非常に重要です。
これまでネット証券を選択した顧客は取り返せないという印象が強く、NISA口座開設の初期段階で顧客を囲い込むことが重視されがちでした。しかし、個人投資家のニーズを分析すると、時間が経過することで資産の流動性は高まるため、顧客のライフステージや金融資産の変化への対応力こそが金融機関にとって重要だとわかります。
次回は、今後資産形成事業を強化するために検討するべきポイントを解説します。
(2024年5月20日付、金融経済新聞)