ITエクセレンスを高める

Boost your IT excellence

著者:Bernhard Skritek-Deim、Till Unger、Zeno Lobe

 

企業のITプロジェクトといえば、時間がかかる、ビジネス価値が低い、資金がいくらあっても足りないといった理由で最終的に満足する人がほとんどいない、と言われています。この先、要求事項が増え続けることから、この問題はさらに深刻化するかもしれません。

 

デジタル化は、あらゆるレベルで本格的に到来しました。企業は何年も前から巨額の資金を投入して、古いバックエンドシステムの更新、最新のeコマースソリューションの採用、そして人工知能などの新テクノロジーの導入を進めています。そのために、企業はITシステム環境を刷新するだけでなく、IT組織の有効性と効率性を確保して、デジタル化の課題に対応できるようになる必要があります。

ここ数年、こうした傾向は急激に加速しています。近年生じた新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックによって、デジタル化がいかに重要であるかが明らかになりました。デジタルの変化が加速し、それに伴ってITシステムへの投資が増加しました。PwCが実施した「第26回世界CEO意識調査」によると、69%のCEOが新テクノロジーへの投資を検討しており、そのうちの60%の投資目的は「新しいケイパビリティの獲得」だとしています。

世界経済は現在衰退しつつあるにもかかわらず、調査では、企業が今後IT環境への投資を大幅に拡大する予定であることが示されました。

Gartnerによると、平均的なIT部門の支出は2023年に4.3%増加します。また、2030年までに最大40%超の増加が見込まれています。しかし、これほど多額の支出にもかかわらず、あらゆるレベルで囁かれているのは、CEOとCTOの間に緊張感が生じており、場合によってはCEOの不満が高まっているという話です。調査によると、その主な理由は次の3つです。

  • 1
    IT投資によって生み出されるビジネス付加価値が低すぎる。全CIOの71%が、経営層はより高い付加価値をITに求めている、と回答しました1
  • 2
    移行に費用がかかりすぎる。CEOの57%が、ITプロジェクトの費用が増大することに高い懸念を示しています2
  • 3
    ペースが遅すぎる。ITプロジェクトの絶え間ない遅延は、CEOとCIOの間に最大の緊張を生み出す要因の一つです3

1 Gartner, 2021
2 IDC, 2022
3 Gartner, 2022

一度に解決を希望、しかしノープラン

こうした症状の原因は、往々にして奥深くに潜んでいます。例えば、多くの企業は組織がサイロ化したままで変革に取り組んでいますが、全ての領域を包含したビジネスIT戦略がなくては、期待していた成果は実現しません。その結果、フラストレーションを抱えることになります。IT部門と社内の他部門との連携が不十分である場合、この状況はさらに深刻になります。

多くの場合、テクノロジーが複雑で時代遅れであったり、プロセスとサービスの細部にわたる調和が取れていなかったりします。これに加えて、私たちとクライアントとの話し合いにおいて「一度に解決」症候群とでも呼ぶべき現象が存在します。変革は、あらゆるレベルで可能な限り迅速に行われるべきですが、優先順位を付けずに実現することは不可能です。

ITパフォーマンス向上のための4つのオプション

その解決策として、私たちは4つのシンプルなガイドラインをクライアントに提言しています。

ITリソースが限られているにもかかわらず、単純なメンテナンス作業が驚くほど多いことから、必要業務の未処理案件は山積しがちです。これを解決するのが優先順位付けです。既存の業務を単に管理するのではなく、イノベーションのための時間枠を継続的に確保する必要があります。中長期的にIT部門は「技術的負債」の範囲を縮小して、メンテナンス費用を削減しなければなりません。

プロジェクトの優先順位付けは、可能な限り事実に基づいてなされるべきです。そのためには、人件費、期間、コスト見積り、ビジネス付加価値などの指標を含め、前提条件を記録する必要があります。アジャイルの文脈では、このパラメータ化はWSJF法(weighted shortest job first:重み付けされた最短の作業から着手する方法)として確立されています。これに基づいて導き出されるロードマップが金科玉条であり、それぞれのプロジェクトはロードマップに沿って、継続的な進捗、適切な優先順位付けとそれに見合った付加価値が得られるようにモニタリングされます。

かつては、ITとビジネスの領域が分離されていることで調整に時間がかかり、非効率になっていることがよく見受けられました。その結果、ITの成果には、費用がかかる上に要求事項に対応していないという状況が生じていました。解決策は、統合されたチームとしてITとビジネスがより緊密に連携することです。これは必ずしも組織改編を要するわけではなく、バーチャルチームや分野を超えたチーム組成でも問題ありません。このモデルでは、よりアジャイルな方法でプロセスを組み立て、より適切な意思決定を行うために、ITとビジネス両方の責任を共同で担います。そうすることで、エンド・ツー・エンドのビジネスプロセスと製品開発に、テクノロジーをシームレスに統合することが可能になります。

新テクノロジーには新しい知見が欠かせず、デジタル化に伴って高度な資質を備えた人材の重要性がますます高まっています。専門家の知識や豊富なリソースにアクセスし、それらをまとめるためのオプションの一つとして、必要なリソースプールと効果的なパートナーシップを組むことが考えられます。例えば、ニアショアリング、オフショアリング、シェアード・サービス・センターの設置などです。作業をアウトソーシングまたは集中化させることで、コストとノウハウの両方の効率性を高められます。

リソースプールは企業の所在地域周辺のみで探す必要はなく、グローバルに考えましょう。ITセンターを複数の場所に置くことで、新しい従業員を惹きつけることができます。在宅勤務が進む中、全ての人材をひとつ屋根の下に集める必要はなくなり、対面とバーチャルのハイブリッドによる協業が広がっています。働く場所に関係なくデジタル・コラボレーション・プラットフォームを介して、従業員がシームレスに情報交換できる環境を構築し、チームが達成する成果を高めることが重要です。

変化し続ける市場と顧客の要求に対応するために、より柔軟でモジュール化されたITアーキテクチャが求められています。財務管理および製品管理プロセスのために、グローバル標準のマスターデータ構成を備えたスリムな基幹システムを構築する必要があります。競合他社との差別化は、周辺のシステム、特に顧客体験に関するシステムをモジュール化することによって実現するのです。eコマースアプリケーションでは、Gartnerが「コンポーザブルコマース」と呼ぶアプローチが一例となります。このアプローチを適用すると、自社に必要なモジュールを組み合わせることで迅速にeコマースアプリケーションシステムを構築できます。モジュールを部分的に入れ替えることで、顧客の要求事項や市場環境の変化に柔軟な対応ができるようになるのです。

今後の展望:段階的かつ一貫したアプローチが必要

ビジネス価値の優先順位付けには、企業戦略と事業戦略が不可欠です。初期の戦略検討プロジェクトを実施する段階から、ビジネスとITの緊密な統合だけでなく、ITプロジェクトのより適切なパラメータ化の段階的な運用も意識しておく必要があります。システムランドスケープの簡素化とグローバルな人材エコシステムの構築は中長期的なプロジェクトになるので、着手するには早急にビジョンや目標を設定しなければいけません。

※本コンテンツは、Boost your IT excellenceを翻訳したものです。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。

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大原 正道

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パートナー, PwCコンサルティング合同会社

大塚 悠也

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ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

桑添 和浩

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ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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