ESGトランスフォーメーションの推進を支える新たな組織体制

強い影響力を発揮するチーフ・サステナビリティ・オフィサー(CSO)の役割

チーフ・サステナビリティ・オフィサー(CSO)は近年、組織内で一層重要な役割を担うようになっています。

企業活動はもちろん、社会全体においても環境・社会・ガバナンス(ESG)への取り組みがますます重要視されている現在、チーフ・サステナビリティ・オフィサー(CSO)に期待される役割は急速に広がりつつあります。Strategy&が2022年にグローバルで行った調査では、新たにCSOのポストを設置する企業が急増していることが明らかになりました。実際、2021年に任命されたCSOの人数は、それ以前の5年間の合計を上回っています。

Strategy&は、これからのCSOに求められる役割と責任についての理解をさらに深めるために、ドイツ、オーストリア、スイスの3カ国の上場企業を対象に調査を実施しました。そして、DAX40(ドイツ株価指数の主要40銘柄)、ATX20(オーストリア株価指数の主要20銘柄)、SMI20(スイス株価指数の主要20銘柄)の調査で明らかになった各社におけるCSOの位置付けに基づいて、CSOの5つのアーキタイプ(元型)を導き出しました。

調査によると、一部の企業のCSOは経営幹部の一員として最高経営責任者(CEO)に直接レポートを行う立場にいますが、それ以外の企業ではCSOは経営幹部よりも1~2階級下位に位置付けられています。また、一部のCSOは独立したサステナビリティ部門を率いていますが、それ以外はコアビジネス機能(オペレーションなど)の下に設けられたチームの運営を任されており、全社的なESGトランスフォーメーションを推進する上での影響力や能力のレベルはそれぞれ異なります。このように複数のアーキタイプが存在するのは、CSOのように比較的新しい役職では珍しいことではなく、ESGトランスフォーメーションの推進に伴う権限の幅広さを示していると言えます。さらに、CSOの複数のアーキタイプがあるということは、企業がESGの領域におけるパフォーマンスを改善する上での出発点がそれぞれ異なることも意味しています。

「ESGトランスフォーメーションはいまや企業の最優先課題の1つであり、CSOを任命する企業の増加は、そのことを裏付けています。とはいえ、CSOの任命はあくまで最初の一歩に過ぎません。重要なのは、CSOに適切なポジション、権限、リソースを与えて、組織全体の戦略と全ての部門に共通するサステナビリティ目標の達成を目指すことです」

Dr. Peter Gassmann

Dr. Peter Gassmann、
Strategy&グローバルリーダー

CSOの5つのアーキタイプ

DAX企業のCSOの一部は経営幹部の一員としてCEOに直接レポートを行う立場にあり、それ以外のCSOはそうした立場にはないという調査結果を踏まえて、まずCSOを「影響力の強いCSO(CSO with impact)」と「影響力の弱いCSO(CSO light)」という2つのカテゴリーに分類しました。前者は全社的なESGトランスフォーメーションを推進するために必要なポジションと権限を有する一方、後者は大規模なサステナビリティイニシアティブをスピーディかつ着実に実践するための十分な影響力を有していません。

今回の調査では、CSOのレポートラインと組織構造における位置付けにも着目しました。その結果、上記の2つのカテゴリーをCSOの5つのアーキタイプとして、さらに詳しく定義することができました。

The five archetypes
  • 1
    CEOによるCSOの兼任 CEOが自社のESGトランスフォーメーションに直接責任を負い、CSOを兼任するケースです。CEOが兼任するCSOは事業全体の抜本的な変革を自ら指揮し、サステナビリティを企業目標の中核に据え、長期的かつ持続可能なパフォーマンスの向上に向けたマネジメントの実践を目指します。彼らは、自社のサステナビリティについての理念を掲げ、さらに変革を指揮し、顧客や投資家、従業員、NGOを含むその他のステークホルダーからの要求に適切に対処できるのは、経営トップが兼任するCSOをおいて他にいないという信念を持っています。
  • 2
    経営幹部クラスのCSO CEOに直接レポートを行い、経営幹部の一員として最高執行責任者(COO)や最高財務責任者(CFO)と同等のポジションを与えられている専任のCSOです。経営幹部クラスのCSOは、ESGトランスフォーメーションの戦略を取締役会で自ら提案し、サステナビリティ目標をその他の事業目標と同じ俎上(そじょう)で議論することができます。このアーキタイプのバリエーションの1つとして、既存の経営幹部が現在の責務に加えてCSOの役割を兼任するケースもあります。これは一見合理的ですが、実際のタスクや行動に変化が伴わなければ、新たなCSOの役職は単なる肩書に過ぎないと捉えられることもあります。
  • 3
    独立した立場のCSO DAX企業では最も一般的なCSOです。「影響力の弱いCSO」に該当するこのアーキタイプは、組織内において限定的な影響力しか有していません。独立した立場のCSOはESGの各分野のエキスパートで構成されるチームを率いる一方、社内の各部門の協力や支援がなければ、ESG戦略の実践も関連するデータの収集も行うことができません。つまり、このアーキタイプのCSOは多くの時間と労力を費やして各部門にESGに関する理解を促し、彼らの賛同を得ないことには、サステナビリティに関する計画やプロジェクトを推進できない立場にいるということです。このタイプのCSOの責任の範囲は企業によって異なりますが、多くの場合、単なるコンプライアンス対応にとどまらず、取締役会で検討するためのESG戦略の策定、ESGに関連したKPIの策定、ESGに関するレポートの管理などが含まれます。
  • 4
    コアビジネス機能に属するCSO 「影響力の弱いCSO」のバリエーションの1つで、社内のESGフットプリントに大きく寄与するコアビジネス機能に属しています。このタイプのCSOは自社の事業活動を変革することで、環境や社会への悪影響を最小限に抑制することに焦点を当てます。コアビジネス機能に属するCSOを設置するメリットとしては、コアビジネスの中で具体的な成果をスピーディに生み出し、最大化していける点が挙げられます。したがって、このアーキタイプはESGに対する実用的なアプローチとして有効であり、CSOは現場のエキスパートチームと連携してソリューションを開発しながら多くの取り組みを成功に導くことができます。
  • 5
    支援的機能に属するCSO 財務、コンプライアンス、人事、マーケティング、コミュニケーションといった支援的機能に属するCSOです。支援的機能は、組織の環境フットプリントや社会的インパクトに大きな影響を及ぼす事業部門に属するものではないため、このタイプのCSOの権限には限りがあり、彼らのほとんどは自らの権限で組織文化やオペレーションを変革することはできません。こうしたCSOを設置している企業の多くは、ESG分野の初心者です。したがって、法律面、安全面、社会的評価の面でのリスクを最小化し、規制を順守し、自社がESGを重視する企業であるというメッセージを外部に発信していくことが主な課題となります。

まとめ

今回の調査と分析では、ドイツ、オーストリア、スイスの大手上場企業の約半数、つまり「影響力の強いCSO」を設置している企業はESGの重要性の高まりを強く意識し、長期的な視野に立って健全な財務体質の維持と新たな価値創造に取り組んでいることが明らかになりました。Strategy&は、企業は組織全体の中でCSOをどのように位置付けるかについて、これまで以上に議論を深めていく必要があると考えています。単なる規制の順守にとどまらない真のESGトランスフォーメーションを成功に導く上で、CSOのポジションは極めて重要な意味を持ちます。ESG分野で取り組むべき課題は企業や業界によってさまざまですが、ほとんどのケースにおいて、CEOに直接レポートを行う立場にあり、経営幹部クラスのポジションに就いている「影響力の強いCSO」のほうが、組織全体に共通するESGのビジョンを明確化し、それを実現していく上でより大きな影響力を発揮することができます。分かりやすく言えば、CSOに期待される最大の役割とは、ESGの取り組みが企業の財務的価値と不可分であることを組織内に示していくことなのです。

調査手法

本調査のデータは、ドイツ、オーストリア、スイスの大手上場企業(DAX40企業、ATX20企業、SMI20企業)を対象として、2023年3~4月に行ったアウトサイド・インの机上調査で収集しました。分析においては、各企業のサステナビリティ分野で最も重要な責任を負うキーパーソン(CSO)を特定し、彼らを「影響力の強いCSO」と「影響力の弱いCSO」に分類しました。サステナビリティ・ヘッド、サステナブル・リードなど、企業によって異なるCSOの役職名は分析の基準として用いていません。

データ分析の対象としたのは、各企業のウェブサイト、サステナビリティレポート、非財務関連のレポート、年次の事業報告書など、一般公開されている資料です。この他にもXINGやLinkedInといった有料のデータベースを利用しました。

本レポートの執筆においては、Dr. Franziska Poprawe、Lina Kaniewski、Francesca Viefhuesの各氏も大きな貢献を果たしました。

※本コンテンツは、Chief Sustainability Officers with impactを翻訳したものです。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。

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