公的給付の利用から銀行サービスの利用など、今や数多くのサービスがデジタル化されています。こうした動向から判断すれば、デジタルアイデンティティ(デジタルID)市場の成長は必然です。デジタルIDは、政府のサービスや給付に加えて、バンキング、職場、教育、医療関連など多数のオンラインサービスの利用において、本人識別子の役割を果たすバーチャル世界でのパスポートのようなものであるために、今後も整備が進むでしょう。口座を開設するにも、取引するにも、サービスの購入契約にもデジタルIDが求められます。このように、デジタルIDは、日々の業務の効率化、時間短縮を図りながらセキュリティを維持する必要不可欠な機能を備えています。
現在、市場で主に利用されているデジタルIDは、以下の3種類です。
中央集権型、第三者管理型/フェデレーション型、自己主権型の3種類のシステムは現在全て使用され、広く普及しています。とはいえ、社会文化的規範や規制の枠組みの絶え間ない変化を受けて、システムも進化を続けています。各システムにはそれぞれ、メリットとデメリットがあります。
中央集権型モデルはセキュリティと信頼度が比較的高く、第三者や自己が管理する非中央集権型型モデルはユーザーに比較的大きなコントロール権限を認めるために顧客エクスペリエンスが向上するというメリットがあります。一方で、中央集権型モデルはシステム故障のリスクがあり、非中央集権型モデルは複雑なガバナンスが必要であり、かつアイデンティティ窃取のリスクが高まるというデメリットがあります。
各国の通信事業者、銀行、企業、公的機関は、こぞってデジタルIDソリューション開発を後押ししてきました。成功している市場に共通した、特に重要な5つの成功要因を以下に紹介します。
市場やプレーヤーは数多くの課題やリスクを抱えており、セキュアで透明性が高く、かつ大規模な識別・認証プロセスの実現に成功した例は極めて少ないといえます。現在、デジタルIDプロバイダーが直面する重要な課題は以下です。
デジタルIDプロバイダーは一歩引いて全体を眺め、系統立った手法をとることが肝心です。自身の分野で成果を上げ成長するためには、過去の成功例や失敗例に学びつつ、極めて重要ないくつかの問いに答を出し、現在の市況を注意深く評価する必要があります。
デジタルIDプロバイダーは、バリューチェーン内の自身の戦略的ポジションを絶えず修正すべきです。最も潜在性の高い顧客セグメントに優先して取り組み、関連するソリューションプロバイダーと連携することで、この萌芽期の市場を制するチャンスをものにすることができるでしょう。
※PDFファイル内の執筆者の所属・肩書きは、レポート執筆時のものです。
※本レポートは、PwCメンバーファームが2021年に発行した『Digital identity: Opportunities and challenges A perspective for telecom operators, banks, industrial companies and government institutions』を翻訳したものです。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。