電気自動車(EV)充電市場の見通し

急拡大・競争激化するEV充電市場 高収益成長モデルのあり方とは

車両の電動化に伴い急拡大するEV充電市場

足元では逆風が吹きつつあるものの、欧州と中国では車両の電動化の長期的な拡大が見込まれています。2035年における欧州の新車販売台数では、小型や乗用車に占めるBEV(バッテリーEV)の割合が96%、中大型車に占めるBET(バッテリートラック:バスを含む)の割合は62%に達する見込みです。中国でもBEVは78%、BETが41%と、新車販売台数に占める電動化車両の存在感はますます高まりそうです。

BEVやBETが普及するにつれて、充電需要も高まります。欧州における2035年の充電需要は400TWh超、中国においては780TWh超と見込まれており、欧州と中国の合計で小型車や乗用車用に約1億5,100万台、大型車用で約120万台の充電インフラが必要になります。

EVの急速な浸透に呼応する形でEV充電市場も拡大しつつありますが、収益プールは多様であり、また競争激化によって収益の確保は厳しい状況となっています。本レポートではEV充電市場における主要な収益プールの概要を示すとともに、EV充電を組み入れた新たなエネルギーエコシステムの構図と投資対効果のケースを解説。そのうえで、各プレーヤーが利益を伴う成長を遂げるために考慮すべき点を明らかにしました。

今後は日本市場でもエネルギー×モビリティ事業の進展が見込まれるなか、EV関連事業者が考えるべき3つのポイントも本編において提言しています。

主要な収益プール

EV充電のバリューチェーンには、充電ポイント用ハードウェアや追加の付加価値サービスなど、主に6つの収益プールがあります。

充電ポイントのハードウェア
充電ポイントのソフトウェア
土地と資産
電力供給
充電関連サービス
eモビリティソフトウェア主導の追加的なVAS(付加価値サービス)
  • 充電ポイントのハードウェア(ACおよびDC充電器)および必要な付属品の製造/販売(卸売および再販/資金調達マージンを含む)

主な収益手段 ⇒ 充電器1台当たりのエンドカスタマー価格

  • 充電ポイントを操作・監視するソフトウェア、すなわち充電ポイント管理システム(CPMS)の開発

主な収益手段 ⇒ 充電器1台当たりの月額利用料

  • 不動産の権利、および1つまたは複数の充電ステーションの所有権と関連するCAPEX(資本的支出)

主な収益手段 ⇒ 充電器の所有権と立地権から得られる収入

  • 電力調達契約(発電源証明書(GoOs)を含む)
  • 充電ステーションへ(必要な電力レベルで)電力供給するための必要インフラ運用に対し責任を負う地域の配電システム運用者

主な収益手段 ⇒ ユーロ/kWhコスト(電気料金+グリッド接続料金)がCPO(充電ポイントオペレーター)に請求される

  • ハードウェア・サービスの提供(充電ステーションの全ての関連コンポーネントの設置を含む)
  • 充電ステーションのネットワークの管理/運営(電力調達、メンテナンス、ITネットワーク、カスタマーサービスなど)

主な収益手段 ⇒ 充電ステーションごとのコスト、充電器とソケット当たりの割り当てコスト+充電器ネットワーク運用・開発コスト

  • ユーザーへの複数のCPOネットワーク(ローミングを含む)をまたぐ充電サービスへのアクセスと管理:e-モビリティサービスプロバイダー(eMSP)
  • その他のソフトウェアベースサービス

主な収益手段 ⇒ CPO(充電ポイントオペレーター)の充電料金に一定%上乗せ

EV充電市場において事業展開をする7つの方法

既存の競争を踏まえ、EV充電市場において事業を展開する方法は7つに大別されます。1つまたは複数の収益プールへの参入も可能です。

  • 1
    スマート充電ポイントのプロバイダー →充電ハードウェアの開発と製造に加え、スマートかつ統合可能にするためのソフトウェア
  • 2
    充電ポイントのソフトウェア →他システムとの運用を可能にし、また他のシステムとの統合性を高める、ハードウェアに依存しないソフトウェア
  • 3
    オーナー(土地や資産) →充電器が設置されている土地や充電器を所有する
  • 4
    設置とメンテナンス →充電器の設置とメンテナンスを行う電気技師
  • 5
    付加価値サービスのプロバイダー →充電に関わるサービス(非デジタルおよびデジタル)の提供
  • 6
    充電ソリューションのプロバイダー →充電ポイントの設置・運営を行うワンストップショップ
  • 7
    充電ポイントのオペレーター兼オーナー →充電器の調達、設置(外部委託)を行い、かつ所有し、充電ポイントの運営を自ら行う(土地の権利の所有を除く)

EV充電市場の各事業は急成長も EBITDA黒字化は一握り 

EV充電市場における多くの事業は好調な成長率(年40%以上)を示していますが、これまでのところEBITDAを黒字化できたのはスマート充電ポイントのプロバイダーや充電ポイントのオペレーター(CPO)の一部に限られます。こうした状況でもEV充電市場で生まれた企業や石油・ガスの事業者、自動車関連業者など多彩な業界のプレーヤーが既存事業での成長やM&Aを通じてEVバリューチェーンにおけるポジション確立を急いでいます。

今後CPOや充電拠点のオーナーなどはEV充電をエネルギーエコシステムに組み入れることで、電力を需給に応じて柔軟かつ最適に取引できる「充電・フレキシビリティ電力市場」を形成でき、さらなる価値を生み出すことができるでしょう。

最適化された充電・フレキシビリティ電力市場のエコシステム

エネルギー×モビリティのエコシステム構築が進展するなか、各事業のプレーヤーが考慮すべきことは以下のポイントです。これらへの取り組みは将来のEV充電市場における地位の確立だけではなく、利益ある成長にもつながります。

今後の利益ある成長のための考慮事項(事業展開分野ごと)

  • 製品の生涯価値(ソフトウェアとサービスで継続的に得られる収益)と、より広範なエネルギー/モビリティのエコシステムへの統合を念頭に置いてハードウェアを設計する
  • エンドユーザーとシステム設置業者による充電ポイント導入を促進するため、販売チャネルとパートナーネットワークの開発に重点的に取り組む
  • グローバル生産(自社生産/委託製造)と品質管理(国レベルのコンプライアンスを含む)の規模拡大
  • 充電ポイントを効率的に運用するための重要な機能性を含めた明確な顧客価値を提案
  • コスト基盤の拡大または縮小を可能にするために、セルフサービス販売とマーケティングを備えたクラウドベースのソリューションに注力
  • 最新のユーザーインターフェイスを開発し、集中的な連携により取得したデータで洞察を生み出し、稼動時間を増加。「マーケットプレイス(電子取引市場)」を創設して、普及率と規模の拡大を図る
  • 所有形態の選択肢(土地のみ、土地+充電インフラ)を検討する
  • 消費者に魅力的な付帯サービスを提供し、充電ポイントの所在地に他の企業を誘致する
  • 拠点内での発電や蓄電、電力エコシステムによる追加収益を評価する
  • ハードウェアプロバイダーの主力の再販パートナーになる(太陽光や蓄電池とのバンドリングを含む)
  • 地元との密着性と顧客との近接性を維持する
  • 強力なアフターサービスを開発する
  • シームレスなEV充電のユーザー体験(料金の透明性を含む)を可能にする
  • より広範な充電やエネルギーのエコシステムとの統合
  • 取得したデータを活用し、洞察と分析を通じて価値を高める
  • ボリュームベースの価格設定で継続的収益の割合を増やす
  • ソフトウェアを主体とし、ハードウェアは委託製造業者からの供給とする
  • 顧客を中心に考え、経路・基礎の両充電セグメント、製品バンドル、ファイナンス、サービス、エネルギーを統合して顧客体験を向上する
  • コストベースの管理と資本への強力なアクセスを維持しながら、収益性を拡大する
  • 明確な立地戦略(パブリック充電/フリート充電)を策定。適切な契約期間で早期に重要な拠点を確保し、グリッドの可用性に合せて最適化する
  • 顧客中心の統合(自動車/経路の設定、支払い、滞在時間の魅力)に注力する
  • コストベース管理(ハードウェア、電気料金)と優れた運営で、競争力のあるエンドユーザー価格を提供する
  • 自社の資金供給と第三者1)からの資金調達を最適化する

1)第三者には通常、インフラファンドなどのファイナンシャルスポンサーや借入による資金調達が含まれる

出所:Strategy&分析

PwCとStrategy&による「電気自動車(EV)充電市場の見通し」レポートについて

このレポートの分析結果は、米国、欧州、中国の3,000人以上を対象とした顧客アンケート、業界幹部やアナリストへのインタビューのほか、PwC Autofacts®とデータインサイトチームによる報告書などの知見に基づいています。

※本コンテンツは『EV charging market outlook A continued quest for profitable growth in the fast-growing, yet highly competitive, EV charging market』を翻訳したものです。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。

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