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2020-04-14
2030年のヘルスケアは、患者が主体となり治療から予防にそのフォーカスがシフトしていく。また、個別化されたヘルスケアソリューションが、人々の日常生活とシームレスに統合された形で提供されるようになるであろう。こうした未来のヘルスケアサービスは、データとアルゴリズムによって可能となり、従来とは異なる、新たな組織や規制環境下で運営される医療システムで提供されることになるだろう。
変化を目前にして、既存医療システムのあらゆる部分が変革を迫られている。医師やその他の医療従事者は役割の再定義が求められ、規制当局には、デジタル・ヘルスケア・ソリューションと取り扱いに注意が必要なデータの共有に関して、万人が納得するような枠組みを作ることが求められる。さらに、医療保険を提供する保険会社は新しいタイプの医療費項目や支払い方法に配慮していくことが求められるであろう。
こうした医療システムの抜本的な改革とともに、官民両方にわたる医療費予算についても地殻変動が起き、今後、数兆ドル規模の予算が従来と違った分野で使われるようになると予想される。具体的には治療とケアの重要性が下がり、予防、診断、モバイルアプリ、スマートモニタリング機器、AI解析ツールなどがこれまで以上に重要になっていくであろう。
PwCネットワークの戦略コンサルティング部門であるStrategy&は製薬業界のトップ企業の120名以上の幹部を対象に調査を実施した。調査の結果、世界各国の医療費予算が2030年に現在の1割増になるとの予測が明らかになった。また、これよりはるかに高く見積もり、現在から42%増大すると予測する調査研究もある。一方、患者1人あたりの医療費は、現在より28%も減少すると予想されている。これは医療にアクセスできる人の数が、医療費予算の伸びをはるかに上回ることが原因である。
さらに、こうした新しい医療への変化を主導するのは、伝統的な製薬企業ではなく、ハイテク企業になると予想される。このたび、Strategy&が初めて発表した#FutureOfHealth インデックス(12ページ参照)は、トレンドを牽引する主な推進勢力として大手ハイテク企業が台頭し、規制当局がそれを阻む最大勢力になっていくことを、製薬企業は認識していると明らかにした。ハイテク企業がトレンドを牽引すると考えられる理由は、そのすぐれたデータとデータ解析能力の活用が医療分野でも期待されるためである。
実際、大手ハイテク企業は近年、医療分野の特許取得を活発化させているとともに、自前の製品開発力を用いて予防や診断の市場にすでに参入している。また、買収や提携を通じて、製薬業界の伝統的主力市場である治療セグメントにも入ってきている。
これは製薬企業にとって深刻な事態であり、将来は、低利益率が常態化することにつながりかねない。Strategy&の推定によると、患者1人あたりのコストが現在の水準で推移すると仮定すれば、2030年には、今の業界平均である25%のネット利益率に大きな圧力がかかることになる。17%まで低下するというシナリオもあり、利益がすべて吹き飛んでしまうという悲観的シナリオもある。
一方で、診断、予防、デジタルヘルスソリューションといった新たな価値プールに戦略的に入っていく備えを固める製薬企業にとっては、大きなチャンスとなるであろう。製薬企業は、次にあげる3つの選択肢を含めて、ヘルスケアの将来を再考する必要がある。1つ目は、業務の効率性を一層高めて、マーケットシェアを獲得すること。2つ目は個別化されたヘルスケアや予防、デジタルヘルスなど成長する新分野に参入すること。そして3つ目はその両方を目指すことである。
幸い、大半の製薬企業は、起きる変化の速さを認識している。
ヘルスケアの未来の変化を認識することは、確かに重要である。しかしながら、それに対処する包括的戦略を構築し、新しい価値プールに参入し、変わりゆく事業環境の下で問題に対処するために残された時間は少ない。ヘルスケアの未来はすでに現実化しつつある。今後、業界に破壊的変革が起きるのは確実で、あとはそれがいつ起きるかを予測するだけという局面に移りつつあるのだ。
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PDFファイル内の執筆者の所属・肩書きは、レポート執筆時のものです。
“Driving the future of health : How biopharma can defend and grow its business in an era of digitally enabled healthcare” by Dr.Thomas Solbach, Dr.Malte Kremer, Patrick Grünewald, Daniel Ickerott, July 2019