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エネルギー価格が世界中で上昇を続ける中、ロシアからの天然ガスの供給を失った欧州はとりわけ大きな影響を受けている
世界的なエネルギー危機がもたらす影響は、とりわけ欧州の深刻度が他の地域を上回っています。このことは欧州の経済構造に大きな変化をもたらすだけでなく、多くの産業の衰退につながる可能性さえ指摘されています。世界市場で欧州全体の競争力が低下する中、エネルギー価格の上昇による影響は、EU加盟国ごと、また産業分野ごとに大きく異なっています。いずれにしても現在の世界市場において、欧州が生産拠点としての魅力を失いつつあることは間違いないと言えるでしょう。
ただし、エネルギー価格の上昇がEU加盟各国に与える影響の度合いは、各国のエネルギー政策の違いによっても差が出てきます。フランスのほかスペインなどの南部の加盟国では、生産コストの上昇は比較的緩やかな傾向にありますが、ポーランドなどは非常に厳しい状況に置かれています。フランスやスペインでは、エネルギーミックスに占める原子力発電や再生可能エネルギーの割合が高いのに対して、ポーランドなどはロシアの石油やガスに大きく依存していることがその理由です。長期的に見た場合、こうした各国間の差は欧州全体の産業構造の転換を引き起こすかもしれません。
一方、こうした現状は各国企業にESG（環境・社会・ガバナンス）のイニシアチブを見直す機会をもたらします。そして、ここには持続可能な資金調達、税制上の優遇措置、サステナブルな市場への参入、肯定的な社会的評価の獲得といった、より長期的な視点に立ったポジションを確立するチャンスが潜在しています。
国別の産業用天然ガスの価格
国別の産業用天然ガスの価格（ユーロセント／KWh）
平均的なガス価格（2016～2018年）
推定される平均的なガス価格（2022年1～8月）
2022年のエネルギー価格の上昇がもたらす影響は、産業ごとのエネルギーの構成と中間製品の使用割合などにより異なる
エネルギー価格の上昇は、欧州のあらゆる産業分野での利益幅の縮小につながり、その影響度合いは産業分野や国によって異なります。収益性の低下は、その度合いにかかわらず大きなリスクにつながる可能性があります。リスクの特性によっては、投資家にとってその産業分野の魅力が損なわれるからです。しかし、同じ欧州の中でも特殊な製品や特別な品質を備えた製品を強みとする産業分野であれば、もともと利益幅が大きく、コストの構造がR&Dや生産プロセスにおいて固有の技術を持っているため、同じような大きな影響を受けることはないと考えられます。
「今後、多くの企業が欧州における生産体制の再編、あるいは欧州からの完全撤退を決断することになるでしょう。企業はエネルギー価格の上昇が自社のビジネスモデルと収益性にどのような影響を及ぼすかについて、あらためて分析しなければなりません。同時に、エネルギー効率の向上と再生可能エネルギーの利用拡大によって、エネルギー危機と気候変動に的確に対処し、脱炭素化に向けた取り組みを加速させる機会ももたらされています」
Strategy&が提唱するエネルギー危機へのアプローチ
エネルギー価格の高騰を背景に、欧州に拠点を置く企業は既存のエネルギー戦略の見直し、あるいは新たな戦略の策定を迫られるようになっています。全ての企業は業界の現状や自社が置かれた立場を踏まえて、新たなエネルギー戦略にいかにして取り組むべきか、自らに問い直さなければなりません。また、新たな戦略の実践においては、エネルギー関連の施策だけでなく、非エネルギー関連の施策にも同時に取り組むことが重要です。
エネルギーコストの削減と、自社のESGのイニシアチブを結びつけることで、企業には持続可能な資金調達、税制上の優遇措置、サステナブルな市場への参入、肯定的な社会的評価の獲得といった、より長期的な視点に立ったポジションを確立する機会がもたらされます。
※本コンテンツは、How to approach rising energy costs を翻訳したものです。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。
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