日本の保険会社は新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の拡大に対して、迅速に対応している。世界市場における急激な金利低下や大規模な移動制限によって、商品ポートフォリオ、販売モデル、そしてオペレーションに対する変革が求められている。
しかし、事業継続への対応や危機管理は、これらの問題の一部に過ぎない。保険会社は急変する事態に対して素早く対応しつつ、長期戦略の見直しに取り組まなければならない。顧客からの信頼を確立し、保険会社のサポートを最も必要としている顧客への対応が求められている。
今後、市場環境は中長期的に大きく変容していくと予想されるため、保険会社は以下のポイントに沿って迅速に取り組むべきと考える。
ポストコロナにおける保険会社は、市場ダイナミクスへの対応に注力するだけでなく、ビジネス全体を見直すといった包括的なアプローチを取る必要があるだろう。そして、上記のポイントを達成するため、保険会社は「戦略・ブランド」、「販売チャネル」、「ファイナンスおよび資金流動性」、「労働力」、「オペレーション・サプライチェーン」、「規制」の6つの重要分野について中長期的な戦略の見直しが必要である。すなわち、差し迫った状況における対応力を維持しながら、顧客との約束を果たし、多様なステークホルダーの期待に応えていくために、保険会社の事業戦略は変革する必要がある。
現状(2020年5月時点)、日本の保険会社は、COVID-19の拡大に対して迅速な対応を行っているが、対面販売や労働集約的なオペレーションに依存する保険会社にとって、新規契約獲得、オペレーション、保険金支払い業務など、あらゆる分野で問題が生じている。
顧客が失業リスクに直面して日々の支出を見直しているうえ、保険代理店が顧客に直接会うことができないため、国内新規契約獲得件数が減少している。損害保険会社への影響はこれまでのところそれほど顕著ではないが、この状態が今後も続くとは考えにくい。
海外市場の状況を先行指標とした場合※1、国内保険会社は、緊急事態宣言が発令されてから数カ月の間で新規契約獲得件数は2桁台で減少、保険料収入においても1桁台で減少すると想定される。多くの保険会社は、保険代理店に対して一時休業補償などを行っているため※2、今後さらなる収益性および流動性の低下が想定される。さらに株式市場では株価が乱高下しており、債券市場でも利回りが下落傾向にある。このため投資ポートフォリオや海外事業投資を行う事業者にとってさらなる試練となる。
しかしながら、目先の事業安定化を主眼とする戦略に固執するだけでは、現状維持に留まってしまう。保険会社は生まれ変わり、今後の大きな市場機会を捉えることができるような地位を築くため、将来に目を向けなければならない。この観点から、今後12~18カ月の間に世界および日本で展開すると想定される3つのシナリオを図表1に示している。
※1: Insurance Journal, 2020. “Hong Kong Insurers Say Sales Have Fallen to ‘Almost Nothing’ Due to Coronavirus”, Accessed June 30, 2020.
https://www.insurancejournal.com/news/international/2020/02/06/557700.htm.
Global Data., 2020. “South Korea’s life insurance business to decline in 2020 due to Covid-19, says GlobalData”, Accessed June 30, 2020.
https://www.globaldata.com/south-koreas-life-insurance-business-to-decline-in-2020-due-to-covid-19-says-globaldata/
※2: 国内大手生命保険会社の発表を参照
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