エネルギー・ユーティリティ業界におけるデジタルビジネスの成熟度

コアビジネスを補完して新たな価値を生み出す

エネルギー業界で収益を生むデジタルビジネスモデル(DBM)を確立するには?

ユーティリティ事業者は現在、メディアや小売などの業界が何年か前に経験したデジタルディスラプションに直面しています。収益をもたらすデジタルビジネスモデル(DBM)を導入して顧客に新たな価値を生み出せるよう既存ビジネスを変革するか、あるいは市場を失うか、この2つの選択肢しかないことは、他業界の経験からも明らかです。ユーティリティ事業者にとっての朗報は、クリーンエネルギーへの移行が進む中、発電、送配電、電力小売といった既存のビジネスの延長線上にサービスを追加することで、絶好のビジネスチャンスが得られるということです。そしておそらく、その変革の最前線に身を置く企業が優位に立つことでしょう。

本調査レポートでは、DBMの機会と課題、コアビジネスとの相乗効果の獲得可能性はどこにあるか、また必要なケイパビリティをどのように確立するかについて詳しく説明しています。私たちは、欧州におけるユーティリティ・バリューチェーン各領域の専門家300名超を対象に、デジタルトランスフォーメーション(DX)への期待、新しい製品やサービスの投入に関する進捗状況、変革を阻む要因について調査を実施しました。

「他の業界では、すでにDBMを活用して、顧客をよりよく理解し、よりよいサービスを提供しています。エネルギー企業は、単にキロワットを売るのではなく、顧客のより高い期待に応え、長期的に競争力を維持するために、ビジネスモデルのデジタル化を急がなければなりません」

Norbert Schwieters氏、World Energy Council理事

調査結果によると、2019年に実施したデジタルビジネスの成熟度に関する前回調査以降、ユーティリティ事業者の収益に占めるデジタルビジネスの割合は予測どおり、2019年の17%から2023年には24%に上昇していますが、依然として野心的目標には達していません。このままでは投資家の期待を満たせず、業界の競争上の課題にも対応できないリスクがあります。本調査では、業界先進企業へのインタビューを交えて、進歩を阻む要因と、先見性のある企業がそれらをどう乗り越えようとしているかを明らかにしていきます。

 

DBMとは何か、それはどのように価値を生み出すか?

DBMは、人工知能(AI)、インターネット・オブ・シングス(IoT)、クラウドコンピューティングなどの新たなテクノロジーを駆使して、個人顧客や法人顧客に価値をもたらし、自社の潜在的なプロフィットプールを拡大します。

DBMが生み出す価値により、製品やサービスの品質、利便性、革新性、エクスペリエンスなどが高まれば、顧客は喜んで相応の対価を支払うでしょう。さらにDBMは売上増だけでなくコスト削減や最適化の機会も提供します。

 

コアビジネスを補完して新たな価値を生み出す

2019年に実施したユーティリティ事業者のデジタルビジネスの成熟度に関する調査において、回答者は、2024年までにDBMが収益の24%を占めるようになると予測していました。DBMによる収益が2023年にその割合に達したことから、これは正確な予測であったと言えます。現在から5年後および10年後の予測では、DBMは2028年までに収益の36%、2033年までには45%を占めると見込まれています。

Expected share of business from DBMs in the future

デジタル製品やサービスが収益に占める割合を今後10年間で予測どおりに倍増させるために、ユーティリティ企業は変革を早急に進める必要があります。これは、従来の商品やサービスを手放すのではなく、それらをデジタル化して利益率が高く拡張性のあるDBMを確立する必要があることを意味しています。

本調査では、さまざまなDBMの将来的な収益創出力について考察しました。その結果、最も収益創出力が高いのはコアビジネスとの相乗効果の可能性から、EV充電とスマートDBM(スマートメーターやスマートグリッドなど)であると特定しました。これらはいずれもバリューチェーンの中で消費者と直接の接点があるところに位置しています。スマートメーターやスマートホームがその価値をフルに発揮できるのは、電力版のダイナミックプライシングの導入によって経済的なインセンティブがもたらされ、家庭がそれに適応することで暮らし向きが向上する場合のみです。スマートグリッドがエネルギーシステムのコスト削減をもたらすことでグリッド(送配電網)事業者が経済的な恩恵を受け、長期的には家計にも恩恵が及ぶことになります。

デジタルビジネスモデル(DBM)の実現度合いを探る

DBMに期待される収益創出力と現時点での実現度合いにはギャップがあります。このギャップの大きさ(実現ギャップ)は、企業が収益性の高いビジネスモデルを構築するために、今後さらなる取り組みが必要であることを示しています。スマートDBMやEV充電などの実現ギャップが大きいDBMも、ユーティリティ事業者にとって魅力的な投資対象であることは疑う余地がありません。

The implementation gap

では、なぜこのような実現ギャップが生じているのでしょうか。私たちの調査によると、その理由は大きく2つに分類されます。

  • 1経済の不確実性により、経済的投資効果が不明瞭になっている

    ここ数年、世界経済はいくつもの予期せぬ打撃を受けています。景気後退、地政学的緊張の高まり、規制環境の混乱、先進テクノロジーによる創造的破壊といった不確実で不安定な環境においては、新しいDBMを確立することは高いリスクを伴うため、こうした状況が投資の妨げとなっています。これらのリスク要因が、DBMの経済的投資効果の不確実性を高め、企業のDXのタイムラインを不明瞭にしているのです。

    不確実性が消えることはないため、経済の大きな変化に迅速に適応するビジネスモデルのレジリエンスが不可欠です。第一に、革新的なサービスや製品のポートフォリオによって経済的な打撃を受けにくくし、第二に、アジャイルなカルチャーや起業家精神を醸成して、ダイナミックなニーズの変化にも素早く対応できるようにする必要があります。

  • 2資本へのアクセスの悪さも資金調達ギャップに拍車をかけている

    資金調達ギャップの2大原因として、回答者の約55%が資本へのアクセスの悪さを、46%がDBMに対する社内の理解不足を挙げています。デジタル製品やサービスが10年後には収益のほぼ半分を占めることを真剣に考えるのであれば、企業はDBMを確立するために多額の外部資金を調達する時期に来ていると言えます。

    本調査レポート内で複数挙げられた資金調達状況の改善手段のうち、一つを紹介します。まず、導入を検討している新しいDBMやテクノロジーに関連する機会と課題を把握する目的で、マイノリティ投資のポートフォリオを構築します。そして、そこからの学びを活かして、リーダーシップチームが有望なプロジェクトを取捨選択すれば、適切な戦略分野に注力できます。

結論

調査回答者は、DBMを構築する最も有効な方法として以下の取り組みを挙げています。

  • 1
    DBMの理解を深めて有望な投資機会を特定することで、外部資金へのアクセスを改善する
  • 2
    テクノロジーの知見を獲得・活用するために外部パートナーとコラボレーションする
  • 3
    DXの課題に取り組めるよう社内のITノウハウを再構築する
  • 4
    選択したDBMの収益創出機会をフルに獲得できるよう、クラウドコンピューティング、エネルギー分析、AIなどの必要なデジタルケイパビリティを整備する

Dr. Oliver KalsbachおよびJonas Bruns氏も本レポートの執筆に貢献しています。

※本コンテンツは、Digital business maturity in the energy and utilities sectorを翻訳したものです。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。

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