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この数年の動きを振り返ると、2020年10月の日本政府の2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにするという「2050年カーボンニュートラル宣言」に始まり、2021年4月には政府による温室効果ガス削減目標の発表など、カーボンニュートラルに関わる大きな転換が進んだ年であると言える。コンサルタントとしてさまざまな企業と接する中でも、数年前まではカーボンニュートラルに関わる取り組みは各企業の中で「コスト」と見なされ、消極的に対応がされていたが、この1年間で各企業の姿勢は大きく転換し、積極的にカーボンニュートラルを推進し始めているように感じる。
特徴的なのは、各社がカーボンニュートラルの取り組みを単なる「コスト」ではなく、「事業機会」として見始めている点にある。従来、環境価値の社会への提供と経済価値の実現(自社の収益獲得)はトレードオフの関係であると見られていたが、この1年では多くの企業が環境価値と経済価値を同時に実現するトレードオンの事業戦略が存在し得ることに気づき、その可能性を追求している。
今回のテーマである「水素」はまさにCO2削減と同時に事業収益を生み出すトレードオンのビジネスとなり得る。水素の本格普及は長期的に捉える必要があるが、普及まで待たずに自社の事業戦略を検討し、実際に手を打ち始めていくことが肝要である。ただし、電力やガスといったエネルギーが溢れている2021年現在の検討にあたっては、事業セグメントを細分化して見る必要がある。例えば北米で進んでいる水素フォークリフトの導入は、「室内の大規模で高稼働(24時間稼働)な倉庫」という限定的な事業セグメントで進んでいる。
本特集号では、脱炭素における水素の役割に始まり、欧州での状況、グリーン水素についての供給側の可能性、需要側(アプリケーション)の可能性などを、具体例を紹介しながら解説する。
今後さらに急速にカーボンニュートラルが進む世界の中でトレードオンの事業を構築し、推進していくために、本特集号が貴社の検討の一助となれば幸いである。
PDFファイル内の執筆者の所属・肩書きは、レポート執筆時のものです。
ストラテジーアンド・フォーサイトは、PwCネットワークの戦略コンサルティングチームStrategy&が、経営戦略についてのさまざまな課題をテーマに、経営の基幹を担われている皆さまに向けて発行する定期刊行物です。日本企業の方に興味を持っていただけると思われる記事をリーダーシップチームのメンバーが執筆、また欧米で刊行している季刊ビジネス誌「strategy+business」およびグローバルで刊行している冊子や調査報告書の中から抄訳し、ご紹介させていただいております。